実は去年の10月から作業を始めていたデモ用のカットなのですが、今月やっと3つ目の公開に至り、僕の中では一旦のキリとすることができました。習作的な側面もあるのですが、今までの習慣にならって、今回の3つのカットで自分が志したことをまとめておこうと思います。
動きが主役の映像は、3つの種類に分けられる
大学生の頃、「スポーツ映像論」という授業を受けていました。一般教養科目でありつつも興味深かったその授業のレジュメを、僕は今でも保管していて、そこで語られている内容のうちのひとつが、上記のようなことです。
3つというのは、
・スラップスティック
・ミュージカル
・活劇
の3つであり、映画がトーキーになって以来、物語主導の作品が主流となった現在でも、「動くことが面白い」というアトラクション性を強く持つジャンル、という意味で挙げられています。
僕がその授業を受けていたのは2012年で、現在では映画も含め動画コンテンツのあり方は日々変わってきている印象もあるのですが、上記3つが動きを主役としたジャンルであることは間違いないと思います。
業界に入ってから今までアクションばかりをやってきて、これからもこの道を歩んで行きたいと思っていた僕は、デモカットを制作をするにあたって、これら3つをジャンルをテーマに据えました。野球選手であれば「走攻守」というように、アクションアニメーターにおける「走闘舞」という形で、自身の力量を測れると思ったからです。
一つ目から、活劇/スラップスティック/ミュージカルの順に対応しています。
↓各カットの埋め込みと、簡単な紹介文はこちら
https://bannoyuki.com/animation/demo
コンテンツに依存しないことの価値
CGアニメーターの仕事は、誰かが考え出して、誰かがデザインし、誰かがモデリングしたキャラクターを動かすことです。自分と明確に切り離されているはずのキャラクターと、動きを通じて融合していく感覚は、この仕事でしか味わえない醍醐味と思っているのですが、一方でキャラクターや物語に導かれて芝居ができてしまう故、自身の能力や特性が自分でもわからなくなります。そろそろ若手とも名乗れなくなった今頃にデモカットを作ろうと思ったのは、自身のそういった部分の不明瞭さが気になったからでした。
故に、自身でコンテンツを作るのではなく、匿名性の高い素体と空間を使っています。提示したいのは、あくまでアニメーターとしての自分のあり方で、それ以外の要素は極力省きたかったからです。後から見返して、”20代のアニメーターとしてのセルフポートレート” になれば、という思いで制作しました。
主役機全身。デザインもモデリングも基礎を学んだことのない身ですが、プロポーションやシルエットはこだわって作りました。このあたりは人間に近ければ近いほど、動きは見せやすいです。
アーティストとしてのアニメーターでありたい
「今日も命があるのなら、」そう思いながら過ごす日が増えました。フリーになって以降、自分が一番知ったのは、自分自身のことでした。
今日も命があるのなら、僕はできるだけ、自分がやることに意義があることに、その時間を捧げたいです。アニメーションを作るのは、とても時間のかかることで、ひとつのプロジェクトでそれなりの成果をあげようとすれば、短くても2カ月、長いと1年以上の時間が奪われます。先が長いかも知れぬ人生とはいえ、今の年齢でしか作れない動きもあります。
誰でも良い仕事をするくらいなら、僕は家で自分のアニメを作ります。自分がやることに意義があることって何よって、自分で作って提示していかないと、誰にもわからないのだから。
デモ用のカットって何なんだって、これはむしろ、無駄な仕事を請けないための魔除けです。
どのカットも10秒を超えていて、イラストなんて目もくれず、カメラと共にどこか別の境地へ動き続けるのです。
僕はこういう道を教えてもらって歩んできた、こういう筋のアニメーターであって、これからだってこの道を歩んでいきたい者です。
今回のデモカットをご覧になって、その上で振りたい仕事がもしお手元にありましたら、ご相談いただけると幸いです。