坂野友軌 [BANNO Yuki]_web - Part 4

EAL: 最終回「楽しまなくてはいかんのか」

投稿日:2018年12月8日

 

今回改めて自主制作を作っていて、しばしば言われたのが「好きなものを作れて、楽しいでしょう?」ということでした。
楽しい時がないとは言いません。でも僕の場合は、年に1、2回くらいです。後の時間はだいたい「めんどいなぁ」か「しんどいなぁ」です。

また、「熱意のある人」とか、「作る衝動を抑えきれなかった人」というようにご紹介いただく時もありましたが、これも違います。
決意は熱くも大きくもなく、必要を感じる以上、やらざるを得ないだけです。

ではなぜ作るのか。

「作ることでしか歩めない一歩があるから」です。
今までも、作ることで一歩ずつ歩いて来ました。前の一歩で得た速度がゼロに近づき、「このままこんな日々が続けばいいなぁ」と思えないなら、また一歩あゆむしかないのです。
その中で楽しい時間があれば儲けものですが、そもそも楽しいか否かをあまり考えていません。

「やりたい」とか、「楽しい」より、もっと切迫した問題があるのです。

 

 

と、ここまで書きましたが、作中を振り返ると、その姿勢もいかがなものかと思ってしまいます。

弓永「楽しかったよ」 亀井「仕事のほうは、楽しい?」 弓永「楽しかったのかもしれない」 亀井「楽しかった?」

楽しいかどうかを気にできる時間は、それだけで満たされた気持ちになります。それを誰かと分かち合いたくて、僕はこの作品を作り始めたはずです。
作ることに苦労はつきもので、楽しくない時間があるのも当然ですが、自分の気持ちだけは、置き去りにしないであげてください。

 

 

最初に楽だと言っておきながら、最終的にはやっぱりつらい、という結論になってしまいました。ただ、自主制作を作っていて、つらい、という時間は、自分主導であればあるほど、誰とも共有できないものです。まずはその気持ちの存在を自分自身で認め、可能であれば、誰かに相談してみてください。僕自身、それでだいぶ救われました。そういう関係を築いていければ、生きること自体も、少しは楽になるかもしれません。

イージー・アニメ・ライフ、これにて終了です。最終回あまりに短いので、下に亀井が弓永を黙って見つめるカットを並べておきます。どちらかというと、こういう願望のほうが強いのだな、と今回初めて気づきました。
また、『滞留して沈黙』に関する広報活動もろもろも、自発的なものはこれですべて終了です。コンペに引っかかれば何かあるかもしれませんが、期待はしないほうがよろしいかと思います。
このレポートを最後までご覧いただいた方、『滞留して沈黙』ならびに僕自身をこの1年応援してくださった方、誠にありがとうございました。

弓永を見つめる亀井、その1 弓永を見つめる亀井、その2 弓永を見つめる亀井、その3

 

-イージー・アニメ・ライフ
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EAL: 第7回「プレミアで足せるアニメボールド表示」

投稿日:

 

今回はプレミア(Adobe Premiere)での編集作業を振り返ります。

基本的には、シーケンスに動画コンテを読み込んでおいて、できあがったカットから差し込んでいくだけですが、ここで取り上げるのは、音響のミックス作業も関わってくる終盤での話です。

AEからムービーを書き出す時、ボールドは消しておいていい

当たり前のようにも聞こえますが、アニメ制作の場合、音関係の人たちとやりとりをする際に、タイムコードより、カットナンバ―やカット内のフレーム数で意思疎通を図れたほうが圧倒的に楽です。音響用のデータを出すまでは本撮でもボールドを表示したままで、後からボールド抜きのムービーを出力し直すことも、わりと真剣に考えました。音響用のデータを出力する時点で100カット以上が一旦の本撮を終えていましたが、それを出力し直すとなると、膨大な時間がかかります。

ボールドとは赤丸で囲ったものがボールド(途中まで使ってたもの)。カットナンバーやカットの尺、カット内でのフレーム数が記してあります。中央下部の青枠で囲ったものが、タイムコード。

 

実際はそのようなことはしませんでしたが、プレミアのエフェクトを使えば、この問題がすぐに解消できることを後から知りました。

 

プレミアでボールドを足す方法

とりあえず調整トラックを足して、ボールド用のクリアビデオを配置

 

「クリップ名」と「タイムコード」のエフェクトを足します。プレミア内、ボールド追加用エフェクト

 

すると、プレミア上でこのような表示を追加できます。プレミアでのボールド表示_001

実際には、クリップ名(デフォルトではファイル名)とそのファイルの使用フレームが表示されている状態です。どんなプロジェクトでも、ファイル名にはカットナンバー(上記だと、110と111)が入っているはずなので、これで互いにやり取りができます。
参照するトラックを切り替えて、mainとsubに分けることで、オーバーラップにも対応しています。

 

普通のシーンでは、mainにしかクリップが入っていないので、こうなります。プレミアでのボールド表示_002

 

所々入る黒画面は、カラーマットを一旦シーケンスに読み込んで尺を持った状態で本編シーケンスに読み込んでいます。黒画面ボールドの準備_001

黒画面ボールドの準備_002

 

こうすれば、黒画面も、場面ごとにフレーム数を確認できます。黒画面ボールド

 

これによって、音響作業が終わるまでは、ボールドを残しておいて、最後の書き出しの時だけ非表示にする、ということができます。完パケ後に英語字幕を作成してもらった際にも、再度ボールドを表示し直せたので、大変役立ちました。

カッティング、ダビング、本番、とテイクを重ねて作業していくプロの現場であれば、気にすることもないですが、1カットずつ一人で作っていくような場合、このようなシステムは重要になってきます。知っているだけで時簡短縮につながることなので、こういった部分こそ抜かりなくやっていきたいものです。

 

さて、2ヶ月ほどやってきましたが、次回で最終回です。
第1回から今日までの内容は、今年の6月あたりに記しておいたものを、少し整えて公開する方式だったのですが、次回分は、まだ書いていません。先ほどタイトルだけ決めた程度です。
制作プロセスは一通り追えたので、今回の制作の総括のような内容になると思います。

飾らず力まず、できるだけ誰のことも煽らない内容にできればいいなと思っています。

 

 

-イージー・アニメ・ライフ
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EAL: 第6回「描かずに動かすAEワーク」

投稿日:2018年11月24日

 

今回はAEを利用して、作画の負担を軽減した箇所を中心に振り返っていきたいと思います。

まずは、メイキングの動画として一本にまとめました。

こちらをもとに、振り返っていきたいと思います。

パペット機能にリグ構造を追加できる『Duik』

昔からある有名なフリーのスクリプトですが、個人的には今回初めて使用しました。
(ダウンロードはこちら)。

 

・00:00~

Duik_歩き

横向きで歩きながら芝居をするカットは、Duikでリピート歩きを作ってから、必要な個所だけ作画で動かしています。このカットであれば、上半身のイヤホンをはずす芝居だけが作画のモーションです。
歩きながらの芝居は、上半身だけセル分けするにしても、上下動が入ってきたりするので、管理が面倒です。Duikでリピート歩きまで作れば、上下動はAEのヌルに組みこまれているので、後から必要な分だけ芝居を足して、素材を差し変えるだけで完成します。

 

・00:08~

Duik_木_001

Duik_木_002Duik_木_キーフレーム

木に関しても、作画で動かすと手間がかかるので、Duikを使用しました。
複数のピンをひとつのコントローラーにリンクさせることで、ヘルパーの数を減らしつつ、回転でも動きを制御できるようにしています。

 

・00:14~

Duik_歩き_ヨリ

こちらも歩きのカットです。ヨリでスローなので、丁寧に仕上げました。
ヘルパー同士の階層構造はほとんどありません。アップだったり、接地が重要なカットは個別にキーを打ったほうが制御しやすかったです。

 

雨、霧、湯気、だいたいのものは作れる『Particular』

こちらも有名なプラグインです。作画の手間を省くだけでなく、背景の情報量も足せるので、大変助かりました。
(ご購入はこちら。使い方によっては、もっといろいろできます。仕事でも一番重宝しているプラグイン)。

・00:22~

Particular_完成画面_001 Particular_抽出画面_001

上が完成画面で、下がParticularを使用して作った素材の抽出画面です。このカットでは、雨と霧を作っています。

 

・00:25~

Particular_完成画面_002 Particular_抽出画面_002

このカットでは、湯のみの湯気と、街の灯りがParticularです。

 

・00:27~

Particular_完成画面_003

Particular_抽出画面_003

このカットでは、雨に関連するもろもろをParticularで作っています。ピチャピチャ跳ねる雨粒は数枚のエフェクト素材をクリスタで描いてParticularで配置しています(このあたりのやり方は新海誠さんのブログで知ったことをそのままやっています)。
歩き始めと共にバス停の庇から出て傘に雨が当たり始める、という演出にこだわりがあって、こだまプロダクションさんに細かく注文を出したりしていました。

 

その他(シェイプなど)

あとは、シェイプがやはり便利です。

・00:30~

AE_シェイプ_001

AE_シェイプ_002AE_シェイプ_キーフレーム

このカットは、車をどう処理するかを考えあぐねていたのですが、シェイプでそれなりに出来ました。素材ごとに変形させつつ、ヌルで移動させています。
手間なので、ラインとカゲはつけていませんが、その気になればつけることも可能かと思います。

AE_シェイプ_スライド

 

・00:39~

AE_シェイプ_落ちカゲ

地面に落ちる傘のカゲはシェイプで処理しています。カメラでパースさえ取ってしまえば、Particularの処理もそれに沿わせて追加できるので、何かと役に立ちます。

Particular_レイヤーエミッター
赤い平面がエミッター。地面の雨粒をパースに沿って、その上傘の下には落ちないように放出できます。

地面の微妙な段差はディストーションマップをクリスタで描いてディスプレイスメントマップを適用しておきました。

AE_ディスプレイスメントマップ

 

 

ディスプレイスメントマップgif

これで擬似的に段差にマッピングできます。

 

・00:44~

AE_ボールアニメーション

スライド+メッシュワープでゆがませています。動きをつける上でのテーマは「愛嬌をもたせる」でした。

 

・00:55~

AE_タイヤ_回転

 

バスの移動距離とタイヤの回転をエクスプレッションで連動させています。

AE_タイヤ_回転_エクスプレッション

1行目の800はコンポサイズのx値の半分、2行目の386はタイヤの半径です。-20.6はオフセット値。

 

・01:01~

夜の風景シーンは、質感を持った背景を描かずに、白い主線(1枚)と撮処理だけでどれだけ作れるか、という試みでした。結局は、Particularで質感を足して、タービュランスで同トレスぶれ感を足す、という始末のつけ方が多かったように思います。

 

・01:09~

AE_町全景

このカットは、メイキング用にBGを非表示にして、グリッドを追加しました。細かい部分までいろいろ動かしているのに気づいてもらえれば、というものです。

奥のほうの、光の点が移動しているのは、Particularを使っています(モーションパスを使って、ライトの軌道に沿わせています)。

Particular_ライトエミッター

奥のほうから、順番に街灯がついてくるのも、Particularでマスクを切っています。手前に向かってまばらに点灯してくる、という演出のために手間をかけました。

Particular_マスク

 

川沿いの明かりは、シェイプの「パスのトリミング」を使って、奥に向かって光が行き渡るような演出を入れています。シェイプ_パスのトリミング

 

以上です。
今回は動画を人に頼まない分、面倒な部分をAEで始末する術も、わりと磨けたような気がします。一度こういったことをやっておけば、改めてグループワークになった時にも良い効果が出るのではないかと思っています。

次回はプレミア(Adobe Premiere)を使った編集作業を、少しだけ振り返りたいと思います。僕自身今回初めて10分以上の尺の作品を作ってみて、プレミアの使い方も少しは知っている必要があるのだな、と実感しました。
このレポートも全8回ということで、そろそろ終わりが近づいてきましたが、あと少しよろしくお願いします。

つづく

-イージー・アニメ・ライフ
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